2025/12/08 08:50
しばやん
【インタビュー/作家・早見和真さん】著作の9割が映像化! 話題のドラマ原作者のトークショーをレポート
11月22日に『平惣徳島店』で開催された「『ザ・ロイヤルファミリー』ドラマ化記念!作家・早見和真さんトークショー&サイン会」。
県内外およそ80人のファンが訪れ、会場は満席に!
作品の魅力やドラマの裏話、作家デビューまでの経緯や今後の活動についてなど、たくさんのエピソードが作者自らの言葉で語られた。
ときに笑いを交えながら繰り広げられる軽快なトークに、会場は終始和やかな雰囲気に包まれた。
トークショー終了後の早見さんに、作品に込めたテーマや創作への思いについてお話を伺った。
作家・早見和真さんインタビュー
―イベントにたくさんのファンの方が参加されていました。徳島の読者の方との交流はいかがでしたか?
来てよかったと言ってもらえるとほっとします。みなさんにとっての貴重な1日を使ってここに来てくれている。徳島で80人は東京でいったら何千人という規模。ありがたいです。
―愛媛にお住まいだったころに徳島にも来られたことがあるということですが、徳島の「いいな」と思ったところはありますか?
吉野川がすごくいい。吉野川を見ると「徳島だ」っていう気持ちになります。
愛媛に住んでいたときに、夜に弾丸で徳島ラーメンを食べに来たことがあって、そのときにたまたまその時期だけしかやっていない漁(※1)を見ることができて。あれは価値があるなあと思いました。
あとは『大塚国際美術館』も行ったし、鳴門の渦潮も興奮する。一番札所の雰囲気もすごくいい。
徳島新聞で「デブ猫ちゃん」の番外編(※2)を前後編で書いたことがあります。2回だけだから、2カ所しか取り上げられなくて、一番札所と鳴門の渦潮を選びました。
今日もそのときの記事を持ってきてくれた人がいましたね。
※1 吉野川のシラスウナギ漁…冬の夜に行われ、吉野川の川面をライトで照らす幻想的な様子を見ることができる。
※2 徳島新聞2022年12月「かなしきデブ猫ちゃんが徳島にやってきた?徳島番外編」
『平惣徳島店』の特設コーナー。※取材時
―トークショーの中で「9割の作品が映像化されている」というお話がありました。作品の映像化について、原作者としてどのように考えていますか?
映像化の話をいただいたときは、その人が僕の本をどう読んでいるかをすごく聞きますね。
そこで自分の伝えたいことが伝わっていないと感じた場合は、どんなに大きな企画でもお断りします。そこの判断は必ず自分でするようにしていて、見誤ったら自分の責任だと思っています。
大切なのは物語をどう息吹かせてくれるかということ。信頼して預けられる相手かどうか、人を見て判断しています。
―『ザ・ロイヤルファミリー』では、作品を通して最も伝えたかったことは何ですか?
大きなテーマは「継承」です。自分が成し遂げられなかったとしても、あきらめずにやり抜いた先に思いを継いだ人が達成することもある。競馬をただのギャンブルとして見るのではなく、競走馬が100人、200人の思いを乗せて走っていることも知ってほしい。
でも小説を読んでどう感じるかは読む人の自由なので、「ホープがんばれ」「ファミリーがんばれ」だけでも十分だと思っています。
―物語の重要なポイントとなるレース結果を成績表という形で表現された部分がとても印象的でした。
これは、データや記号として受け取られる危険性はありましたが、この本に付き合ってくれる読者なら、物語の行間として読み解いてくれるという期待感もありました。
ロイヤルホープやロイヤルファミリーがどういうレースをしたか、読者は想像してくれるに違いない。そう考えたからこそ、この表現方法を選びました。 文学賞でも評価いただき、自分でも発明だと思っています。
―『イノセント・デイズ』と『店長がバカすぎて』を読んで、作品の幅の広さに驚きました。
9割以上の作家は新人賞を受賞してデビューしますが、僕は新人賞をとっていない。
ジャンルに縛られる必要がないデビューの仕方をしているから、それならいろいろ試したいという気持ちがあります。
(ジャンルを固定しないため)ファンは付きにくいですが、こうやって人前に出て話すのは苦手じゃないので、「あいつおもしれえから書いたもの読んでやろう」と思ってくれる人を1人でも増やしていこうと。
それで、いろんなジャンルを書くことに対する恐怖はなくなりました。
―幅広い作品はどのように生まれるのでしょうか?
編集者と話している中で、ぼわーんと舞い降りてくる瞬間があります。
自分でメモを取りながらだとアイデアに追いつかないから、その場でとにかく書き留めてもらう。ほとんどがそういう生まれ方。
僕に近い編集者たちはその瞬間がわかっているから、すぐにメモを開いて逃さないようにしてくれる。
(物語が生まれる瞬間は)編集者といるときが多いから、僕には編集者という職業の人が必要ですね。
―さまざまな作品を手掛ける中で、作家として大切にしている思いはありますか?
どの作品も「自分たちの目に見えているものが本当かどうか」という話を書いています。でも、いくら書いても伝わっている手ごたえがなくて、手を変え品を変え挑戦しているという感じ。
デビュー作『ひゃくはち』は、新聞社が切り取るような高校野球だけが本当なのかということに挑んでいます。タバコを吸って合コンをしている。だけど甲子園に行きたい気持ちに嘘はない。
『ぼくたちの家族』では、「いい家族」と世間からチヤホヤされる家族が一枚めくったらどうなのかを書きました。
それでも伝わっていないと思って、より直接的に表現したのが『イノセント・デイズ』。世間が凶悪犯罪者と断じた人間は本当にそうなのか。
『ザ・ロイヤルファミリー』も同じように、「競馬ってただのギャンブルでしょ」という人の目に挑んでいきたかった。
あきらめそうになることもあるけど、そういう(多視点で見つめる)世の中のほうが僕はいいと思っているので、一生懸命書き続けています。
2016年から6年間愛媛県で暮らしていて、「徳島は阪神競馬場へ向かうときにいつも通っていました。行くときの徳島は好き(笑)」と話してくれた。
PROFILE
早見和真(はやみかずまさ)
神奈川県出身。小説家。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。2020年『ザ・ロイヤルファミリー』でJRA賞馬事文化賞と山本周五郎賞を受賞。著作に『イノセント・デイズ』など多数。
ザ・ロイヤルファミリー/早見和真/新潮社
990円









