2026/10/22 15:45
yamamoto
城南高校演劇部の『空席』が、全国大会で最優秀賞を受賞するまで
2026年夏、秋田県で開催された「第50回全国高等学校総合文化祭(あきた総文2026)」。
城南高校演劇部のオリジナル作品『空席』が、演劇部門で最高賞となる「最優秀賞・文部科学大臣賞」を受賞した(徳島県立城南高等学校|演劇部活動報告)。
今回話を聞いたのは、『空席』の舞台に立った村端さん、礒部さん、井内さんの3人。
作品づくりの過程や大会の舞台裏、演劇を通じて感じていることを語ってくれた。
『空席』
林まこと 役:井内淳仁(いうち・あつと)さん/高校2年生
内田みお 役:村端七優(むらはし・なゆ)さん/高校3年生、脚本も担当
粟飯原りく 役:礒部心結(いそべ・あたか)さん/高校3年生、演劇部前部長
事情があって、卒業式に出席できなかった3人の高校生が、別の日に卒業証書を受け取ることになった。
集合場所は、机と椅子以外は何もない教室。
別々のクラスだった3人が、ぽつぽつと会話を交わす。
自分たちのために用意されたコサージュを見つけて、互いにつけあったり、スマホで撮った記念写真を送るために、グループLINEを作ったり。
ふいに、黒板に落書きを始める。
先生に呼ばれて、3人は教室を出る。黒板の落書きは消さなかった。
もう一つの卒業式の日、わずかな時間の物語。
(左から)村端さん、礒部さん、井内さん。何世代(ものによっては何十年)も受け継がれてきた道具が詰まった演劇部の部室にて。
生徒が書いた脚本を、自分たちで上演する
生徒自身が脚本を執筆する「生徒創作」は、高校演劇において決して例外的な挑戦ではない。
むしろ、高校演劇を象徴する文化の一つといえる。
そして城南高校演劇部にも、生徒が脚本を書くという伝統がある。
村端さんがわかる範囲で、3学年上の先輩たちのときはすでに「県大会の脚本は部員が書く」ことになっていた。
だから、まずは9月の戯曲コンクールに向けて脚本を作り、良いものができれば11月の県大会で上演しようという流れで進み始めた。
『空席』を執筆したのは、現在3年生の村端さん。これは自身2作目の脚本だ。
――脚本はどのようにつくっていった?
村端さん:「4月(2025年)にアイデアを思いついて、9月の戯曲コンクールに出すまでは1人で全部書きました。そこから県大会までの2カ月間で、2人からアドバイスをもらって書き直していきました」
礒部さん:「結構な頻度だった」
村端さん:「9月の戯曲コンクールが終わってからも、2週間に1回くらいのペースで書き直して。四国大会も全国大会のときも書き直したから、最終的には10稿を超えているかも」
――脚本について、意見がぶつかることはなかった?
村端さん:「2人は本当に1回も台本にダメ出しをしたことがないんです。いつも褒めてくれて。長さを足したいときなんかは『こうしたらいいんじゃない』って、アドバイスをくれました。衝突は1回もなかったです」
県大会が最後だと思っていた
村端さん:「県大会が最後だと思っていたから、『この役ときちんとお別れできるように』って。顧問の田上先生も含めて4人で、楽屋でそんな話をした記憶があります」
礒部さん:「上演後は『やりきったな』と感じました。四国大会、全国大会へ続くとは、まったく思わなかったです」
――周囲の反応で手応えはなかった?
村端さん:「みんな何でも褒めてくれるんです。いろいろな種類の演劇を尊重して、褒めてくれたら、こちらも褒め返すみたいなのがあって」
――最優秀賞は城南高校だと発表されたときは?
礒部さん:「驚き…、何だろう? 自分のことじゃないみたいな不思議な感覚でした」
村端さん:「何の賞だったのかちゃんと聞いていなくて。最優秀賞だとは思わなかったです」
実際に四国大会に進むとなれば、それなりにプレッシャーはかかる。
最優秀賞が告げられた日、会場のあわぎんホールから藍場浜公園に移動して、夜の真っ暗な中で反省会をした。
村端さん:「四国大会はもっといいものに。台本も演技も変えようという話をしました」
出場校同士で称え合う。書かれたコメントの真っ直ぐさに、胸が熱くなる。
「分かりやすくしたくない」――脚本をめぐる葛藤
――四国大会に向けて、台本にはどのくらい手を入れた?
村端さん:「だいぶん書き直しました。キャラクターをもっと詳しくして、立ち回り方を変えて。一人ひとり(の役)が自分の思いを話せるように、新たにシーンをつくりました」
登場人物がなぜその選択をしたのか。何を考え、どんな気持ちを抱えているのか。
脚本の中で人物の背景をより詳しく描いていった。
その一方で、村端さんには悩みもあった。
顧問の田上先生から求められたのは、もっと分かりやすい作品にすること。
村端さん:「分かりやすくはしたくない。でも、確かに分かりにくかったなとも思って。だから、分かりやすくなりすぎずに、先生の言っていたことを改善するにはどうしたらいいんだろうって」
観客に伝わるようにする。でも、何もかも説明してしまう作品にはしたくない。
そのバランスをどう取るか。
セリフの言い回しを変えたり、セリフを少し足したり減らしたり。
ほかの人には気づかれないほどの細かな変更も含め、書き直しは続いていった。
四国大会で、突然任された3分間の企画
県大会からおよそ1カ月後、愛媛県で開かれた四国大会。
実は、上演とは別の出来事に3人は頭を悩ませていた。
村端さん:「生徒交流会が…」
礒部さん:「上演が全部終わった後に、生徒交流会があるんです。クイズ大会が行われるはずだったんですけど、担当高校がインフルエンザで全員来られなくなって」
村端さん:「各校3分間で何かしてくださいって、開会式の後に言われて。上演が終わった1時間後くらいにそれがあるんです。前夜からホテルで『どうしよう、どうしよう』みたいな」
――何をやった?
村端さん:「心の声と体をばらばらにする(内面と身体表現を乖離させる)という演技法があると聞いて。礒部くんはインタビューに答えているんだけど、心の中では『うわー、緊張するー』とかぐちゃぐちゃ言ってる。その心の声を井内くんが演じました」
そんな思いがけない出来事もあった四国大会。
『空席』はここでも最優秀賞を獲得した。
ついに、全国大会へ
四国大会から全国大会までは、半年以上の期間があった。
その間、城南高校演劇部は別の作品を文化の森で上演した(※1)。
『空席』の稽古は、その公演が終わってからの再開となった。
2026年夏。
第50回全国高等学校総合文化祭(あきた総文2026)の演劇部門は、7月30日から8月1日にかけて開催された。
会場には、日本各地から選ばれた12校が集まった。
礒部さん:「部員が70人くらいいる学校もあって、人数に圧倒されました。パンフレットを見ると、ほかの学校は役者もスタッフも名前がずらっと並んでいて。僕らは役者3人で、スタッフのところも『城南高校演劇部』とだけ書いてありました」
城南高校では、音響を顧問の先生が担当。
照明は役者でもある礒部さんが受け持った。
――演技をしながら、照明も操作していた?
礒部さん:「そうです。最初は出番がないので、調光卓で明かりを上げてから舞台へ走っていくんです。最後の方も、舞台からはけて、袖から調光卓まで走って、明かりを下げるという感じでした」
一方、井内さんが大きな会場で意識したのは、声の届け方だった。
もともと声が通りにくいと感じていたため、全国大会の会場では声の出し方にも気を配ったという。
3人がそれぞれの役を演じる『空席』。
本番では、思わぬ出来事も起きた。
(※1)第24回文化の森演劇フェスティバル(2026年6月13~14日)、上演作品『ごめんね!』
観客の咳と寝息
『空席』の上演中、客席から大きな咳が繰り返し聞こえてきた。
その音が会場に響いていたため、3人は咳のタイミングを見ながらセリフを言い、演技の間を調整。
村端さん:「3人ともその咳に合わせて演技を変えたので、上演時間が3分も延びてしまいました」
まだある。
礒部さん:「終盤になって、寝ている人がいて。舞台の端に設置されていたバウンダリーマイクが、その人の寝息を拾っちゃったんです」
村端さん:「審査員から『鳥の声のタイミングがばっちりでした』と言われました。寝息が鳥の鳴き声の演出だと思われたみたいです」
そんな出来事もありながら、全国大会での上演を終えた。
そして審査結果の発表。
『空席』は、最優秀賞・文部科学大臣賞に選ばれた。
――発表を聞いたときは?
礒部さん:「七優さんはめっちゃ手が震えとったよな。最優秀賞って聞いたとき」
村端さん:「震えがとまらなくて」
井内さん:「(震えるなど)体の反応は出なかったけど、すごく嬉しかったです」
礒部さん:「一番喜んでいたのは顧問の田上先生でした」
――受賞結果は演劇部の活動にどのようにプラスになった?
井内さん:「校内公演を観に来てくれる人が増えました」
『空席』で受賞した数々の賞状や盾。
城南高校演劇部への入部
3人が城南高校演劇部に入部したきっかけは、それぞれ違う。
村端さんは、高校演劇部の顧問を務める父親の影響で、小学生の頃から高校演劇を観ていた。
村端さん:「城東高校の『21人いる!』(※2)を観て、こんなに違う作品もあるのかと驚きました。城南高校に入ったら、ここでも違う作品をしているのを知って、やってみたいなって思ったのがきっかけです」
礒部さんは、子どもの頃からドラマや仮面ライダーが好きだった。
礒部さん:「ドラマを観ていると、『演じるってどういうことなんだろう』って気になって。興味本位で演劇部に見学に行ったら、のめりこんじゃったみたいな感じです」
井内さんは、もともと演劇にそれほど興味があったわけではなかったという。
井内さん:「友達(実は村端さんの弟)が徳島市立高校の演劇部に入っていて。文化の森での公演を観に来てほしいって言われて、観に行きました。『(演劇って)なんか、いいかも』と思っていたら『演劇部に入部したら?』って押されて。それで、入部しました」
(※2)2023年の第47回全国高等学校総合文化祭(2023かごしま総文)の演劇部門で最優秀賞を受賞
3人が思う、高校演劇の魅力
井内さん:「演者の経験があると物語に入りやすい。役が何を考えているのか、なんでこう動いたのか。そういうことを考えていくと、だんだん物語の世界が分かって、入り込めるところです」
礒部さん:「この3年間、演劇関係の友達が本当にいっぱいできたんです。高校演劇があったから、いろいろな縁がつながりました」
村端さん:「台本を書くことは、普段言えないことを言っていい場所というイメージがあって。実際には言えなくてモヤモヤしていることを、(物語という)世界にして昇華して。それを評価してもらえたら、自分が考えていたことは間違いじゃなかったんだなと思えます。逃げ道みたいな感じです」
村端さんは今後も物語を書くことを続けたいと話し、礒部さんは大学に進んでも何かを演じることを続けられたらと考えている。
「静かさが売り」の3人がつくった舞台
「僕たちの世代は、静かさが売りです」
3人の普段の様子を尋ねると、礒部さんはそう答えた。
例えば昼食の時間。3人そろっていても、それぞれが黙々と食べていることが多いという。
取材中も、3人が声高に何かを主張することはなかった。
受賞したときのことも、脚本を何度も書き直したことも、尋ねられたことを一つずつ、落ち着いた調子で話してくれた。
『空席』もまた、静かな作品だ。
卒業式に出席できなかった3人が教室に集まり、言葉を交わす。
大きな事件が次々と起きるわけではない。
それでも、何げない会話や、その場に流れる沈黙から、それぞれの人物が抱えているものが少しずつ見えてくる。
脚本を書いたのも、舞台で演じたのも高校生たち。
その言葉や表情、間の取り方には、彼ら自身が考え、選び取ってきた表現がある。
静かに淡々と進む会話劇『空席』は、あまりにもリアルで切ない。
おそらく誰の心の奥底にもある、10代のあの頃の、今でも説明のつかない感情がまた胸を締めつける。








