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2020/10/23 09:49
あわわ編集部
講演会レポート「孤独から仲間に出会う~共に生きる、ひきこもり支援の実際~」
目次 [閉じる]
- 1 ひきこもりとは
- 2 『フリースクール阿波風月庵』設立のきっかけ
- 3 本人がやった分だけ、できた分だけ評価する
- 4 親としてどのように対応すればいい?
- 5 自立支援を支えるメンターの必要性
- 6 ひきこもりからのステップ
- 7 ひきこもりの人やその家族へのメッセージ
2020年9月29日、あわぎんホールにて『令和2年度 徳島県自殺予防講演会』が開催されました。
最新のデータによると、2020年1月から8月末までの期間に、自ら命を絶った人は全国で1万3000人以上。徳島県内での自殺者数は年々減少傾向ではあるものの、8カ月間で64人が亡くなっています。
自殺に至る経緯としては、多様な要因があると考えられており、心理的に追い詰められた末の死であると言われています。ひきこもり状態は自殺要因の一つであり、“社会とのつながりの減少”や“役に立たないという役割喪失感”などによって悩み、追い詰められ引き起こされると考えられています。
日本におけるひきこもり状態にある人の人数は、現在100万人以上とも言われています。社会問題となっているひきこもりの要因にはさまざまな背景があり、本人はもちろん、家族やそのまわりの人たちにも支援の場が必要です。悩み共有も大切です。
今回の講演では、自身もひきこもりを経験し、その経験を社会貢献へつなげるためにひきこもり支援をする『フリースクール阿波風月庵』の設立者・林 三知男さんを講師として招き、支援の実際をお話しいただきました。
大学時代に自身も「ひきこもり」の経験があり、その後30種のさまざまな職業を経験。46歳でカウンセリングを学び、 フリースクールの活動準備をはじめる。2000年に半年をかけて全国のフリースクールやフリースペースを見学し、2001年に『フリースクール阿波風月庵』を設立。2005年からはNPO法人承認を受け、公益事業を開始。不登校、ニート、ひきこもり状態にある本人や家族、関わる支援者などに対し、相談、自立支援、啓発、研修、支援ネットワーク構築などの実践活動を行っている。 _
ひきこもりとは
仕事や学校に行けず、生活上人との関わりを自ら回避する行動が日常的で、6カ月以上習慣化している状態を言います。単一の疾患や障がいの概念ではなく、さまざまな要因が背景になって生じる状態をいいます。その中でも、“ひとりが好き”、“人から教えてもらうのが苦手”、“自分の意見をはっきり話さないがこだわりが強い”、“人があまりいない時間帯に行動する”など、このような行動や考え方はひきこもりへの一因と考えられます。
『フリースクール阿波風月庵』設立のきっかけ
大学へ入学後、自分自身が一年間ひきこもりを経験しました。子どもの頃から「クラスで一斉に受ける授業をなんとなく嫌だと感じていた」と、自覚はしていたものの高校生までは個性と思っていました。大学に進学すると学校には通わず、死を考えたり、現実逃避の生活を続けていました。20歳代は社会でさまざまな仕事を転々とし、回避の先の家出を繰り返しました。その後の実体験を活かして「同じように悩んでいる人やその家族の役に立ちたい」と考え、40歳代からフリースクール設立の準備を始めました。
本人がやった分だけ、できた分だけ評価する
ひきこもり本人の主体性を尊重する自立支援を行っています。阿波風月庵のプログラムの目的は「コミュニケーションをとる」ことです。長期間ひきこもっていると、久しぶりに人に会うと緊張して頭が真っ白になり、話せないことがよくあります。しかし「話はしないけど、なんとなく気持ちを共有できている」と無言の意思疎通もコミュニケーションの一つになります。また、何事も行動する前に目標は立てたり、「あなたならできるよ」と声をかけたりはしません。本人がやった分だけ、できた分だけ評価することが自信につながります。他人とは比べず過去の自分と比較し、「前よりうまくいった」と言葉をかけ、もし上手くできなかったとしても「できないことがあってもいいじゃない」と現状を受け止め、長い時間をかけて向き合えれば良いのではないかと考えています。
親としてどのように対応すればいい?
相談に来る人のほとんどは母親です。昔の父親は家事や育児に積極的ではありませんでした。そんな父親の姿を見て育った今の子どもたちは、父親が親としてどうしたら良いか迷っているようにも思えます。なので、母親から相談されたときにどうしたら良いかわからない…。私自身も二児の父親ですが、「父親らしさがわからない」と悩んでいた時期がありました。子どもには父親の存在が大きすぎて、相談できない場合もあります。過去に、父親が弱音を吐いたら子どもが自分で行動し始め、クリニックなどに通うようになったという事例がありました。親が自分自身の悩みを子どもに相談すると、「悩んでいるのは自分だけじゃない」とより身近な存在に感じられるのです。親が変わることで、子どもが動き始める――私が考える父親らしさは、“子どもに向かい合い、子どもと共に成長する父親としての謙虚さ”だと思います。
自立支援を支えるメンターの必要性
自立支援は本人が中心となります。そこで、自分を支えてくれるメンターを見つけることは大切なことです。また、同じような経験があるピアサポーターも欠かせない存在です。私自身がひきこもりの人たちのピアサポーターであることで、フリースクールを運営していく上で役に立ったことは多くあります。また、若者と接していくうちに、自分の新たなひきこもり特性や一面があることに気づきました。そして、若者にかけていた言葉を自分にも言い聞かせられるようになり、この気づきによって「無理せず自分のできる範囲で」と考えることができ、20年間活動を続けてこられたと思います。利用者が生き方を変えてくれました。“家族の支援”と“ネットワークの構築”がキーとなります。
ひきこもりからのステップ
本人と家族(まわりの人)では、考え方が違います。例えば、私が本人や家族と面談したとします。私が自発的に発言することはほとんどありません。そうすると、母親は「はっきりしたことを言ってくれないからここはダメ」と思うのに対し、本人は「聞いてくれる。言葉にしなくてもわかってくれる」と思ってくれたケースもありました。このように受けとめ方は本人と家族で違いますので、じっくりゆっくり進めることが大切です。私の中では最低3カ月は自由にし、「心の力、生きる力」を蓄えてもらっています。そのうちに、雑談できる能力や日常生活が気楽になることにつながります。
ひきこもりの人やその家族へのメッセージ
「あなたは、まわりの人たちを幸せにする一歩先を歩いています」と声を大にして伝えたいですね。ひきこもりはあなただけの問題ではなく、家族みんなの問題です。その子を中心に家庭の課題を考えることで家族間のつながりが生まれるのです。今、大切なものを見直さないと何も動き始めません。ひきこもっている本人に目を向け、心を傾けることが重要です。
●なんとなく心や体が不調なとき、話を聞かせてください●
・いのちの希望(旧徳島いのちの電話)
tel.088-623-0444
・チャイルドライン(18歳まで)
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