2023/01/27 11:25
山本正代
建物だって【地産地消】 日本トップ10の森林県・徳島の実例ファイル
徳島は日本トップクラスの森林県
“森林率”ってご存知ですか? かいつまんで言うと、国土面積に占める森林面積の割合のことです。
林野庁発表の最新データ(平成29(2017)年3月31日現在)によると、日本全国の森林率は67%。つまり、日本の面積の約7割は森林ということになります。
「森なんて、地方だけでしょ?」と思います?
実は東京都は36%、大阪府は30%の森林率。全国にまんべんなく「森林」が存在するのです。
そんな中、徳島県の森林率は76%。森林率の全国トップ10の常連です。
この豊かな木材資源を活かし、地元で伐採された木で建物をつくる取り組みが、いま全国各地で広がっています。
建築技術の進化とともに、木造の良さが見直され、さまざまな建築に木造が採用されるようになりました。
高層ビルも木造化されるようになり、木造建築は新時代に突入!
ウッド・チェンジの波は徳島にも起こっています。
その一つが「徳島ヴォルティス」のクラブハウスです。
この大きな建物が、一体どうして木造になったのか。
徳島ヴォルティス株式会社の岸田社長と、設計者の内野輝明さんに、いきさつをお聞きしました。
木造建築の新時代とJAS製材 ~徳島ヴォルティスクラブハウス編~
令和3(2021)年10月1日、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されました。平たく言うと「公共・民間を問わず、建築物に木材を積極活用しましょう」という内容です。実はこの法律の施行より半年も前に、木造の新たな可能性を示す建築物が徳島県に誕生しました。それが「徳島ヴォルティスクラブハウス」(延床面積約300坪)です。
木造が採用された経緯を教えてください。
(岸田)いちばんのコンセプトは「徳島らしいクラブハウス」です。次に「温かい雰囲気の仕事場」。二つをまとめて表現するなら、木造になると思いました。
では「徳島らしさ」とは何か。それを考えて、徳島県産の木材を使うという発想に至りました。徳島県産の木材を使って外観や内観をデザインすることで、コンセプトに合う仕上がりになりました。
(内野)はじめから「木造が前提条件」と聞いていました。でも集成材(小幅板材の節など欠点を取り除き、繊維方向をそろえて接着した木質材料)を使うのは徳島らしくないと常に思っているので、地域の製材のみで構成することとしました。
木造にすることについて、運営スタッフのみなさんから意見はありましたか。
(岸田)はじめは耐久年数や耐震性等の強度に疑問を持つスタッフがいました。
(内野)それについてプレゼンテーションを実施しました。「木造は(建設費用が)高い」と思われがちだけれど、木材そのものが軽く、基礎工事のコストを抑えられること。木造建築の耐久性は決して低くないこと。建築確認申請が通ること自体が強度の証明になること。そして災害が起きた際には、サポーターや地域のみなさんが避難しにきたときにも大丈夫な様に考えましょう、とお伝えしました。
独特の構造について教えてください。
(内野)この建築ではJAS製材を使っています。今回は一般に流通している四寸角(12センチ角)の柱材で過去最大規模の「重ね梁(かさねばり)構法」にチャレンジしました。
東日本大震災以降ずっと考えてきたことがあります。もし、3・11のようなことが四国地方に起こったら、被害の範囲はものすごく大きくなる。せめて木材だけでも備蓄しておけば、早い段階でそれを使って、復興のための木造建築ができるのではないかと。
実は徳島県の応急仮設住宅(普及型)は、四寸角の柱材だけを使った重ね梁構法です。
一般に流通する木材1種類を積み重ねるだけで建物ができることが広まれば、県内のあらゆる場所で木材(柱材)を備蓄できるようになるかもしれない。
一般規格の柱材は日常的に需要があるので、余剰分は市場に出せます。
備蓄しながら、木材を乾燥させて使う、言わば「木のローリングストック」です。
徳島ヴォルティスクラブハウスはたくさんの人が訪れる建物になるでしょうから、徳島ヴォルティスさんと木造建築の力を借りて、林業県ならではの事前復興の提案になりうると思いました。
Jリーグの所属クラブは全国にあります。このクラブハウスはどのように評価されていますか。
(岸田)J1でもこれだけの施設を持っているところは多くありません。広い食堂、リラクゼーションルームやミーティングルーム。「ここなら良い仕事ができる」と思ってもらえる環境が整っていることは、選手獲得の際に大きなアピールポイントになります。そして有能なフロントスタッフ採用にも役立っています。建物から生まれる良い環境は、チームの運営に大きな影響を与えてくれます。
木造建築の良さを知ってもらうために、どのような働きかけが必要でしょうか。
(内野)徳島ヴォルティスクラブハウスのような良い実例をたくさんつくることだと思います。一般の方がたくさん訪れる建物を木造でつくることで、木造建築がSDGsやカーボンニュートラルに直結するもので、治山治水、ひいては県土の安全に結びつくと気づいてもらえたら、木造の良さを見直す機会になればいいなと思います。