2024/02/19 16:00
さあや
【連載】おいしいコーヒーの淹れ方/豆ちよ焙煎所(名西郡神山町)
この春、社会人になった私は同時にコーヒーもデビュー。コーヒーを買って飲む機会が増え、ようやく自分好みの味もわかってきた。
しかし豆の挽き方やドリップの仕方などおいしい淹れ方は無知。そこで、徳島で自家焙煎し究極の一杯を目指すスペシャリスト達にお家で楽しめる淹れ方を教わった。
マスターのこだわりを知って、コーヒーをよく知らない人もコーヒーが好きな人も、おいしいコーヒーがある生活をエンジョイしませんか?
ということで今回は『豆ちよ焙煎所』におじゃましてきた!
コーヒーによって生まれる繋がりときっかけ
あなたにとって一杯のコーヒーはどんなものですか。
単なるドリンクと捉えることもできるけれど、コーヒーによって生まれる繋がりに目を向ければ世界がもっと広がり、ホットな気持ちになる気がする。そんなコーヒーを届けるお店に出会った。
場所は神山町の寄井商店街にある『豆ちよ焙煎所』。
寄井商店街とは神山町役場に面した通りのことで、昭和4年(1929)より演劇や映画などカルチャーの中心地として賑わった『劇場寄井座』がある場所。寄井座は現在もイベントなどで使用されることもあるが、一部を『神山つなぐ公社』の民家改修プロジェクトによって息を吹き込み、焙煎所兼珈琲店として再出発させた。
そのプロジェクトに手を上げたのは2011年に神奈川県より徳島に転居した千代田孝子さん。はじめは徳島市内に住んでいたのだが、友人の紹介により山の上の空き家に住むことになったという。そこがたまたま神山町だったのだ。
コーヒーを始めたきっかけは、「友達の引っ越しを手伝った際にあった要らなくなった手回し焙煎機になんとなくピンときて」とのこと。移住するときも徳島へ持ち込み、家で夜な夜な焙煎をしていたという。
徳島でマルシェやイベントへの出店が増え、コーヒー漬けの日々を送っていた頃、民家改修プロジェクトのテナントを募集していることを知った千代田さんは、晴れて2018年6月に『豆ちよ焙煎所』をオープンさせた。
店内は大きな窓から光が差し込む温かい空間。季節感のあるディスプレイやアートが散りばめられ、時にはギャラリースペースとして活用することもあるそう。
棚にはお遍路さんや都心から神山町へ視察で訪れた人々の道中に喜ばれる本を数冊セレクトして置いている。これらは「コーヒーを味わうときに気持ちが少しでも和やかになってくれれば」という思いから。コーヒーショップだがコーヒーだけではないおもしろさが転がっている。
写真は[Elizabeth]の[あんぱん](260円)。この日は珍しくパンも食べることができた。
神山町出身の高橋喜美子さんがつくるイギリス菓子[Elizabeth]にも注目。イギリスが大好きで毎年足を運ぶとのこと。毎週火曜日にお店に並ぶが、県外のお客さんから「あのケーキありますか」と問い合わせがあるほどだという。
浅煎りから深煎りの順に並べられた豆のグラデーションが美しい。
ここでいただけるコーヒーは浅煎りから深煎りのシングルオリジンが約7種類と季節のブレンド2種類ほど。
千代田さんは『TOKUSHIMA COFFEE WORKS』の小原さんの元へ足を運び、コーヒーや焙煎について知識を深めたという。
焙煎機は[FUJI ROYAL]直火式の3kg釜を使用。少量でも豆の個性が鮮やかに活かせて焙煎の手応えが感じられる直火式のものだ。
平日は毎朝3.4回焙煎し、1回の焙煎は15分前後かかるという。浅煎りだと10分ほど。もっと時間がかかるものだと想像していたけれど火のかけ方や時間配分など、瞬間の勝負が繰り広げられていたのだ。
お店になかなか立ち寄れない人や県外で暮らす人におすすめしたいのが、毎月発送の[コーヒー定期便]。オンラインストアから簡単に定期購入でき、千代田さんがセレクトしてくれるおまかせコースもある。県内外の多くの人が毎月コーヒーが届くワクワクも味わっている。
人気の理由は定期便の豆と一緒に届く千代田さんお手製の「よむcoffee」にもある。神山町の今や今月の豆、おすすめ商品の紹介、コーヒー器具の使い方から千代田さんが選ぶBGMまで多岐に渡る情報が1枚に綴れれている。
温かいコーヒーを飲みながらこれを読めばもっと心もあたたまる。神山町の広報やパンフレットなども一緒に同封されているため、神山を離れたお客さんにもよろこばれているそうだ。
遍路途中に寄ってくれた県外の方も豆を気に入ってもう何年も定期購入してくれているという。オンラインだけどオンラインじゃない、ほっこりする繋がりが生まれていた。
2019年に豆の取引をしている東ティモールの農園へ行った話も聞くことができた。
星が綺麗な村の農園にて、家族の営みとしてコーヒーの実を摘み、選別。昔の脱穀機のように手動で木製の機械をぐるぐると回し、種と果肉に分けられていくのだそう。街に行くと大きな焙煎機やカフェもあるが、農家さんは家にある鉄鍋で豆を煎って飲んでいたという。さつまいもと一緒にいただいたコーヒーはやさしい味だったと教えてくれた。
世界最後の独立国家である東ティモールはポルトガル領だったためコーヒー文化が根強く、独立国家として再建していくときには、国の産業として日本人が一緒になってコーヒーを栽培してきた歴史があるという。普段何気なく飲んでいたコーヒーは、人の手仕事から渡ってきたものだったんだと考えさせられる。
東ティモールの豆は完熟した豆だけを手積みしているため、大きくきれいで真ん中にまっすぐカットラインが入っている。飲んでなんぼのコーヒーだけど、豆の美しさも知ってほしいとの思いで、[RingRing]の團七穂さんが作るピアスやイヤリングも店頭に並ぶ。
おいしいコーヒーの淹れ方
深煎りの[東ティモール レテフォホ](1670円/200g)
カラフルな鳥が印象的なパッケージは千代田さんの友人イラストレーターとデザイナーの旦那さんが手掛けたもの。
千代田さんが訪れた農園のおいしいコーヒーの淹れ方を教わろう。
コク深い味わいかつ、後味はさっぱりとした一杯。
東ティモールは行ったことのない場所だけど、産地のことを知ってからいただくと、豆を育てている人の暮らしや、遠い海を渡ってきたことを想像する楽しさに気づくことができた。
豆情報
・エチオピア イルガチェフェ チェルベサ ナチュラル(浅煎り・1,700円/200g)
・ブラジル ジアマンチーナヨシマツ ピーベリー(中煎り・1,670円/200g)
・ペルー アンデスブルー(やや深煎り1,670円/200g)
・東ティモール レテフォホ(深煎り・1,670円/200g)
・ブラジル サカレマ農園(深煎り・1,670円/200g)
・木かげのブレンド(やや浅煎り・1,700円/200g)など
価格やお店の情報等は取材日現在のものです。変更する可能性があります。
マスターにとってコーヒーとは
「コーヒーをなにか例えるとするなら、リレーのバトンのようなものだと思っています。ここに来るまでにはコーヒーを作ってくれる農家さんがいて、選別する人がいて、運んでくれる人がいる。いろんな人の手を渡ってくるもので、繋がらないと飲めないものでもあります。みなさんのお仕事があって最後にここに届くわけで、私たちは飲んでくれる人にバトンを渡すアンカーのような役割だと感じています」と熱く語ってくれた。
気軽にコーヒーを楽しく飲めることが一番だけど、私は今ここで飲むコーヒーの背景を知っておきたい。ふとした時にそんな事を考えるとちょっと気持ちが広がって楽しい気分になれるから。そしてコーヒーによって世界と繋がれる気がする。
豆ちよ焙煎所
- 住所/ 神山町神領北 85-3
- 電話/080-8863-9090
- 営業時間/12:00~17:00
- 定休日/月、祝日 その他休業日/不定休
- 駐車場/あり